リチャード・リップマンDR
老化の根源1~3では、20代で始まる修理メカニズムの衰退によって、人間の最大寿命が決定されることを見てきましたが、ここでは、人間を含めた哺乳動物の最大寿命と、ホルモンやペプチドといった重要な修理物質の濃度との関係を説明したいと思います。
私はよく、科学的知識のない人から、老化を停止・逆転させるための魔法の薬はないかと尋ねられます。初めて老化防止研究に関する結果を発表した1978年以来、「そんなものはない」と答え続けてきましたが、今は地平線上にかすかな希望の光が射しているのではないかと考えています。
年齢ごとに低下する修理メカニズム
ジャンクフードばかりを食べたり一晩中パーティーをしたりと、めちゃくちゃな生活を送っていても、テストステロン、エストラジオール(エスナトリ)、DHEA、HGH、インスリン様成長因子1などの蛋白同化ホルモンやペプチドといった重要な修理物質の血中濃度が高いおかげで、ティーンエイジャーや20代の若者、目に見える損害を蒙らないことに驚かされます。
残念ながら、30代や40代になると、こうはいきません。修理物質が少なくなるために老化現象が始まり、50代を過ぎると健康や活力が年々著しく低下していきます。そして、65歳を過ぎると、私たちの身体は破壊を待つばかりになります。したがって、健康や生活の質を維持するために、65歳の人が毎日9~20種類もの薬を飲んでいることが珍しくありませんが、内科医の中には、こういった現在の医療を二流扱いする人もいます。そして、最終的に、気づかない間に悪化する老化によって、多くの人が70代後半や80代前半で亡くなっているのが現状です。
著名な研究者による新しい発見
私は、なぜ背が低いと寿命が長くなるのか、繰り返し自分に問いました。長年犬を飼ってきた私は、大型犬の平均寿命が7~11年であるのに対して、なぜ小型犬は平均して15~17年生きるのか、常に疑問に感じていました。
その後、88匹の犬を調べた結果、体重30kgの大型犬のインスリン様成長因子1レベル(IGF-1)が200ナノグラム/mlであるのに対して、体重8kgの小型犬の場合は100ナノグラム/mgと、その半分に達していることが分かりました。つまり、哺乳動物にとって重要な修理ペプチドであるIGF-1が体重に対して多い小型犬の方が、大型犬よりも修理プロセスにおいて有利であるために老化が遅く、長く生きられるのです。
さらに、IGF-1だけでなく、DHEA、HGH、テストステロン、エストラジオールといった蛋白同化ホルモンが不足する犬ほど不活発なことも観察されました。
身体を修理するためにともに働く成長ホルモン(HGH)とインスリン様成長因子1(IGF-1)
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のジェロントロジー(老人学)研究グループは、100歳以上のほとんどが身長の低い女性であると断定していますが、36kg前後の小柄な女性のIGF-1レベルが、大柄な男性の平均400ナノグラム/mlに対して平均215ナノグラム/mlと、体重に対する比率がはるかに高いことが確立されています。
ハーバード大学の学者であるブラッドリー・ウィルコックスM.D.の「沖縄プログラム」という著書には、身長の低い沖縄の100歳を超える男女のテストステロンおよびエストラジオール血漿濃度が、大柄な70歳のアメリカ人と比べて3倍も高いことが記されています。
フリーラジカルの副産物である過酸化脂質の血漿濃度は、70歳のアメリカ人が2.96ナノグラム/mlであるのに対して、沖縄の100歳以上の男女では1.59ナノグラム/mlと、半分よりやや多い程度です。私は人間のボランティアを対象に、過酸化脂質を広範囲に渡って試験管内測定し、特許取得製品であるACF228を使った臨床試験と犬の実験で、その生産を著しく縮小させました。
これらの事実から、人間および犬の体重あたりのIGF-1濃度が高いことと長寿に正相関のあること、過酸化脂質の濃度が高いと寿命が短くなるという逆相関のあることが分かります。
私の師であるチエリー・ハルトゲ博士の革命的な著書「ホルモン・ハンドブック(パート2)」には、成長ホルモンとIGF-1が、内在性肝細胞、必須栄養素、ホルモン、細胞膜を修復する物質の助けを借りて私たちの身体を修理するという説を科学的に支持する、数百もの説得力のある論文が掲載されています。
修理物質が作用する仕組み
興味深いことに、成長ホルモンとIGF-1から、破損された組織や老化組織における幹細胞の働きに欠かせない、7つの修理物質が作られます。
例えば、私の知り合いである数人の先進的な考えを持つアメリカ人整形外科医は、スポーツによる膝関節の負傷を、以下の手順で慣例的に治療しています。まず、局所麻酔の後に、負傷した膝関節に、上記の7つの修理物質を引き付ける目的で、患者自身の腹部脂肪を挿入します。その後、7つの修理物質、ホルモン、およびマグネシウム、サイロイド、ヒドロコルチゾン、ビタミン(特にビタミンD3とCoQ10)といった栄養素や、ホスファチジルコリンのような細胞膜修理物質が、この腹部脂肪を足場に損傷した膝関節に移動します。これは自然治癒力を利用したものですが、私たちの身体がホルモン不足である場合や、サプリメントによる補給を拒否した場合には、効率的に働きません。
現在これと同じプロセスが、一部のメリカ人皮膚科医によって、しわを取り除く目的で使用されています。例えば彼らは、ハイドロキシアパタイト(商標名レディエッセ)と呼ばれる天然物質をほうれい線に注入することで、これを足場に7つの修理物質を引き寄せ、新しいコラーゲンを産生させます。
50歳を過ぎると誰もが複数のホルモン欠乏症を抱えていることから、コラーゲン蓄積を最大限にするためには、HGHやIGF-1に加えて、適切なホルモンや栄養素を補う必要があります。
修理物質の小史
老化防止研究の実用化の多くは、ハルトゲ博士やアレックス・コンフォート教授の基礎研究に基づくものです。HGHおよびIGF-1という2つの修理物質に関する、広範囲に渡る科学的証拠には、議論の余地がありません。唯一、腸癌がわずかに増加するというリスクがありますが、私は、ビタミンD3、プロゲステロン、エストリオール、アリミデックス、DIM(I3C)、ブルーベリー、サクランボ、くるみといった、アンチエイジング効果のあるサプリメントや食べ物に抗癌物質を加えることで、これを防げると考えています。
さらにウィルコックス教授は、沖縄の伝統食を真似て、ファイバー、フラボノイド、リグナン、葉酸、カロテノイドを大量に摂取するために、6種類の野菜と1種類の果物を毎日消費することで、癌の発生率が約35%縮小されるとしています。
さらなる研究結論
人間同様に犬のIGF-1生産も年齢とともに低下しますが、雌よりも雄の方が急速に失われていきます。図1を見ると、老化と相関的なIGF-1損失は0.7の割合で進みます。犬の場合、大型犬は毎年およそ0.7の乗数でIGF-1生産が減少しますが、小型犬の場合は当てはまりません。したがって、小型犬の最大寿命が平均して15~17年だとすると、16に0.7をかけた11.2年が大型犬の平均寿命ではないかと考えられます。さらに、老化の根源3で述べた人間の最大寿命に0.7をかけた80.5歳が、多くのアメリカ人の平均寿命に近いと言えるでしょう。
補足説明
すべては遺伝子に支配されていますが、現在の科学的知識では、エピゲノム(DNAメチル化等による生後の染色体機能変化)を変えることはできません。私たちを若返らせ、より健康にするエピゲノム変更の実現には、少なくとも後20年待つ必要があるでしょう。
最近のコメント